
社会保険は、一般的に企業に勤めている人が勤務先を通じて加入する健康保険と厚生年金のことを指します。
一方、自営業者の人は、国民健康保険と国民年金に加入するのが一般的です。
ここでは、社会保険と国民健康保険の違いについて具体的に見ていきましょう。
運営主体の違い

社会保険には、全国健康保険協会の運営する「協会けんぽ」があります。企業によっては、企業グループで独自に組合管掌健康保険を設けることがあります。そこでは、従業員へ福利厚生の提供や保険証の交付を行っています。
対して国民健康保険は、それぞれの市区町村が運営しています。
保険料の違い
社会保険(健康保険+厚生年金)の保険料は、会社からもらう「標準報酬月額(※会社がもとにしている月給の額)」に「保険料率(※保険料を決める割合)」をかけて計算します。
例えば、東京都の支部では2025年度(令和7年度)から健康保険料率が9.91%、厚生年金保険料率が18.3%、介護保険料率が1.59%です。それぞれの金額は会社と従業員で半分ずつ負担します。たとえば月給30万円の方は:
- 健康保険料:30万円×9.91%=29,730円(従業員負担:14,865円)
- 介護保険料(※40〜64歳の方のみ):30万円×1.59%=4,770円(従業員負担:2,385円)
- 厚生年金保険料:30万円×18.3%=54,900円(従業員負担:27,450円)
さらに、この金額を会社と従業員で折半することになりますので、負担額はさらに減ることになります。
一方、国民健康保険は前年の所得を基に保険料の算出が行われることになっています。
そのため、会社を辞めて起業し、収入が安定しないうちに国民健康保険への切り替えを行った場合は、保険料が大きな負担となることも考えられます。この点には注意が必要です。
国保は加入者全員に保険料がかかってくる

また、保険の加入者全員に保険料がかかってくるのが社会保険との大きな違いです。
先ほどの例でいうと、妻や子供に保険を適用するためには、夫の分だけでなく全員分の保険料を支払わなければなりません。
保険料の計算
国民健康保険(国保)の保険料は、
所得割(しょとくわり):前年の所得(収入)に応じて決まる部分
均等割(きんとうわり):加入している人数×定額で決まる部分 の合計で計算されます。
たとえば足立区では:
- 医療分:前年の所得×7.71%+47,300円(均等割)
- 後期高齢者支援金分:前年の所得×2.69%+16,800円(均等割)
- 介護分(※40歳以上64歳未満):前年の所得×2.25%+16,600円(均等割)
保険料で比較するとケースバイケースとなりますが、国民健康保険の方が負担が大きくなる傾向にあると言えるでしょう。
内容の違い
国民健康保険では、出産手当金や傷病手当金が支給されないということが大きな違いとして挙げられます。社会保険(健康保険)に入っていると、出産や病気で働けないときに次のような給付(お金)が支給されます。
- 出産育児一時金(1児につき約50万円):出産費用をまとめて支援するお金です
- 出産手当金(※産前42日~産後56日まで):会社を休んで給与がもらえないときに、給与の約2/3を支給します
- 傷病手当金:病気やケガで連続3日以上働けないときに、給与の約2/3が最長1年6か月支給されます
一方、国保では「出産育児一時金」は受け取れますが、出産手当金と傷病手当金は対象外です。産休中や長期入院時の生活保障を重視する場合は、社会保険加入を検討するとよいでしょう。
社会保険から国民健康保険へ切り替えるときの注意点

社会保険から国民健康保険への切り替えにあたって、注意が必要な点について説明します。
会社を退職する場合は社会保険から外れなければいけません。その場合の注意点です。
退職日の翌日付で社会保険の資格は喪失する
退職の場合、社会保険の資格は退職日の翌日で喪失することになります。そのため、月末退職の場合では、翌月1日が資格喪失日ということになります。
社会保険料は被保険者資格喪失日の月の前月までが徴収の対象となります。3月31日で退職した場合は被保険者資格喪失日が4月1日となり、社会保険料はその前月の3月分まで発生することになるのです。
3月30日退職では被保険者資格喪失日が3月31日となり、社会保険料はその前月の2月分まで発生することになります。
一日違いでも大きな違いがあることに注意が必要です。退職日はこれを踏まえてよく考えましょう。
保険証を返却する必要がある
退職の際には、勤め先に保険証を返却しなくてはいけません。
扶養家族の保険証も発行されている場合は、これもあわせて返却します。
退職日の翌日からは国民健康保険に加入
退職日の翌日からは、加入手続きを行っていない場合でも国民健康保険に加入しているとみなされます。
そのタイミングから保険料の請求が発生することになるので、退職後は速やかに加入手続きを行うようにしなくてはいけません。
迷ったときは「任意継続」という手段もある
会社を退職しても、すぐには国民健康保険に加入しないという方法もあります。
これは、勤め先で加入している社会保険を任意継続するという制度を利用します。
任意継続は、退職者が希望をすることで退職後2年間は社会保険への加入を継続できるというものです。
任意継続の場合には、それまでのような保険料の会社負担はなくなり、全額自己負担となるのですが、それ以外の負担をすることなく扶養家族の保険証を用いることができるのです。
ただし、任意継続を利用するには、退職後20日以内に手続きを行わなければならないという点に注意が必要です。
また、会社勤めのときと異なり、給与からの天引きにより保険料を支払うわけではありません。自分で納付をする必要があり、1日でも納付が遅れると強制的に退会となります。逆に言えば任意継続を辞めたいときは支払いをしないだけで自動的に資格を喪失します。
退職して国民健康保険へ新たに加入するか、任意継続をするか迷った場合は、任意継続を選択するというのもひとつの方法です。
なお、いったん国民健康保険に加入すると、そこから任意継続に切り替えることはできません。
保険料の減免について
経済的・身体的理由により国民健保険料の納付ができない場合は、保険料の軽減・減免(免除)措置というものがあります。
自治体ごとに減免基準等は異なるので、自治体のホームページ等でご確認しましょう。