
はじめに
定年退職を控えた田中和夫さん(65歳)は、年金収入だけの生活に漠然とした不安を抱えていました。なかでも「もし大きな病気やケガで高額な医療費がかかったら…?」という心配が消えません。
そこで現役のうちから国民健康保険(国保)の制度をしっかり理解し、老後の備えを始めることにしました。
国民健康保険(国保)は、老後の医療費負担を軽減する重要な仕組みです。老後の備えというと年金や積み立てのようなものを思い浮かべるかもしれませんが、それだけが備えではありません。現役時代から適切に理解し準備を進めておくことで、老後の生活に安心をもたらします。しかし、利用に関する誤解やトラブルも多く、注意が必要です。
2. 高額療養費制度で「安心のライン」を知る
ある日、田中さんは大腸ポリープの切除手術を受け、医療費総額が30万円を超えました。しかし国保の 高額療養費制度 を利用し、窓口での自己負担は約8万円までに抑えられました。
- 仕組み:1か月の医療費自己負担が「限度額」を超えた分を後から払い戻し
- 高齢者の限度額:年金収入が主な方ほど、上限が低く設定されています
- 手続きポイント:治療後に申請書を役所に提出し、還付を受ける
限度額適用認定証でさらにスムーズ
入院や大きな治療が決まったら、事前に「限度額適用認定証」を市区町村で取得しておくと、窓口での支払いが限度額までに自動軽減されます。
ポイント: 高額療養費制度
老後、医療費が高額になった際に活用できるのが「高額療養費制度」です。この制度では、1か月の医療費負担が所得に応じた上限額を超えた場合、超過分が払い戻されます。特に年金収入が主な所得源となる高齢者は、負担額が比較的低く設定されています。
- 申請が必要な場合が多いので、入院や大きな治療を受けた後は忘れず手続きをしましょう。
- 窓口で申請用紙をもらうか、事前に「限度額適用認定証」を取得しておくとスムーズです。
3. 特定健診(メタボ健診)で病気を未然に防ぐ
田中さんは定年後も元気に暮らすために、毎年 特定健康診査(メタボ健診)を欠かさず受けています。特定健診は、40歳~74歳の国保加入者を対象に、生活習慣病のリスクを早期に発見するための健診です。
- 受診期間:6月~翌年1月末(自治体ごとに微差あり)
- 費用負担:無料~数千円程度(協会けんぽ加入者は補助あり、上限7,150円)
- 検査項目:
- 問診・生活習慣の聞き取り(喫煙・運動・食事など)
- 身体計測(身長・体重・腹囲、BMI計算)
- 血圧測定
- 血液検査(中性脂肪、HDL/LDLコレステロール、空腹時血糖、HbA1c)
- 尿検査(尿糖、尿蛋白など)
- 追加項目(自治体独自)例:腎機能、前立腺検査など
ポイント:結果で「要注意」と判定された場合、市区町村の保健師や管理栄養士による特定保健指導が受けられます。生活習慣の見直しプランを一緒に作ることで将来の医療費負担をグッと抑えられます 。
特定健診(メタボ健診)
40歳以上の国保加入者を対象に実施される「特定健診」も、老後の健康管理に欠かせません。この健診では、生活習慣病のリスクを早期に発見し、予防や改善の指導を受けられます。
注意点:
- 健診を受けないまま放置すると、生活習慣病が進行して重篤な病気に発展する可能性があります。
- 毎年の受診が推奨されており、案内が来たら早めに予約をしましょう。
4. 介護保険との連携で安心のケア
40歳になると、国保料の“医療分”に加えて介護保険料(第2号被保険者分)の支払いもスタートします。介護保険は、要支援・要介護状態になったときに介護サービスを使える仕組みです。

- 支払い方法
- 会社員・公務員:給与から天引き(健康保険+介護保険料)
- 自営業者・国保加入者:国保料と一緒に徴収
- 保険料率
- 2025年度(令和7年度):全国平均1.59%(40~64歳対象)
- 都道府県・組合ごとに微差あり。所属先の料率を要確認。
- 利用できるサービス
- 訪問介護(ホームヘルプ)
- デイサービス(通所介護)
- 福祉用具貸与・住宅改修助成
- 地域包括支援センターで総合相談
- 早めのケアプラン作成がおすすめ 「まだ元気だから…」と後回しにせず、地域包括支援センターでケアマネジャーと話をしておくと、万一のときに必要なサービスをスムーズに受けられます
間違えやすい点:
- 国保と介護保険の区別がつかず、介護サービス利用時に戸惑うケースが多いです。
- 地域包括支援センターでの相談を活用すると混乱を防げます。
5. 注意したい落とし穴3つ
- 自己負担割合の勘違い
- 75歳以上は原則1割負担ですが、年金収入が多いと2~3割にアップする場合があります。たとえば年金収入350万円以上だと2割負担に該当。必ず自治体サイトでチェックを。
- 未払いで「資格証明書」発行
- 国保料を滞納すると「資格証明書」が発行され、窓口で自己負担100%になります。年金支給日に合わせた分割納付や減免申請を早めに行いましょう。
- 保険証更新の手続き忘れ
- 高齢者向け保険証(マイナ保険証含む)は毎年更新が必要。更新手続きを忘れると医療機関でトラブルに。通知が届いたらすぐ窓口またはオンラインで手続きを。
6. 今すぐできる!セルフケア&手続き5ステップ
- 限度額適用認定証を取得 入院・大きな治療が決まったら、市区町村役場で「限度額適用認定証」を申請。窓口での支払いが上限額までに自動軽減されます。
- 特定健診&保健指導を予約 6月~1月の間に健診予約。結果で指導が必要なら積極的に特定保健指導を受けて、生活習慣を見直しましょう。
- 介護保険の相談窓口へ 40歳を迎えたら、地域包括支援センターに連絡し、ケアプランの事前相談を。将来の介護ニーズを見越した安心設計ができます。
- 保険料支払計画を立てる 年金支給日やボーナス月に合わせて、国保料・介護保険料の分割納付スケジュールを作成。滞納リスクを減らします。
- 自治体サイト&マイナポータルを定期チェック 制度改定や料率変更の情報は毎年更新されます。マイナポータルの「お知らせ」や自治体サイトで最新情報をこまめに確認しましょう。
老後の国民健康保険を最大限に活用するために
- 計画的な保険料支払い: 年金収入に見合った支出計画を立て、滞納を防ぎましょう。
- 健診の活用: 特定健診を毎年受けることで、健康維持と医療費削減につながります。
- 事前準備: 高額療養費制度や介護保険の仕組みを早めに理解し、必要な手続きや申請を漏らさないようにしましょう。
知識という備え
老後に安心して医療や介護サービスを受けるには、現役時代から国民健康保険について正しく理解し、準備を進めることが大切です。例えば、健診を受けなかったことで生活習慣病が悪化してしまった場合でも、高額療養費制度を活用して金銭的な負担を軽減できるかもしれません。こういう制度があることを知っておけば早めに動けますし、先に地域の保健窓口で相談しておけばスムーズに支援を受けられるはずです。
田中さんのように、健診→手続き→相談→計画→情報チェックのサイクルを回すことで、安心してシニアライフを楽しむ準備が整います。今日からぜひ始めてみてください!