「定年退職したら健康保険はどうなるの?」「年金暮らしで医療費が高くなったら家計が心配…」——50代後半から60代にさしかかると、こうした不安を感じる方は多いのではないでしょうか。
会社を退職すると、多くの人がまず加入するのが国民健康保険(国保)です。そして国保は、65歳・75歳という節目で仕組みが大きく変わります。制度を知らないまま過ごすと「もらえるはずのお金を取りこぼす」「手続き忘れで窓口全額負担」といった損につながりかねません。
この記事では、退職後から後期高齢者医療に移るまでのシニア世代が押さえておきたい国保のポイントを、手続き・医療費・健診・介護・保険料の順に、2026年(令和8年)の最新制度でわかりやすく解説します。

1. 退職後の健康保険は「3つの選択肢」から選ぶ
会社員は在職中「協会けんぽ」や「健康保険組合」に入っていますが、退職するとその資格を失います。日本は国民皆保険のため、退職後は次のいずれかに必ず加入しなければなりません。
| 選択肢 | 加入先 | 保険料の目安 | 加入できる期間 |
|---|---|---|---|
| 国民健康保険 | お住まいの市区町村 | 前年の所得で決まる(退職1年目は高くなりがち) | 75歳になるまで |
| 任意継続 | 退職前の健康保険 | 在職時の約2倍が上限(会社負担分が自己負担に) | 最長2年間 |
| 家族の扶養 | 子や配偶者の勤務先の健康保険 | 本人の保険料は0円 | 年収など要件を満たす間 |
退職直後の1年目は、前年(在職中)の所得をもとに国保料が計算されるため保険料が高く感じられることがあります。「国保」「任意継続」「家族の扶養」のどれが得かは人によって異なるので、退職前に必ず両方の金額を試算しましょう。詳しくは任意継続 vs 国民健康保険の比較記事もあわせてご覧ください。
2. 40歳・65歳・75歳で何が変わる?【節目カレンダー】
国保に関わる制度は、年齢の節目でガラリと変わります。まずは全体像を押さえておきましょう。
| 年齢 | 変わること |
|---|---|
| 40歳 | 介護保険料(第2号被保険者分)が国保料に上乗せされる |
| 60〜64歳 | 退職に伴い国保へ加入する人が増える。医療費の窓口負担は3割 |
| 65歳 | 介護保険が第1号被保険者に切替。介護保険料は国保から分離し、原則年金天引きに |
| 70歳 | 医療費の窓口負担が原則2割に軽減(現役並み所得者は3割) |
| 75歳 | 国保を脱退し、全員が後期高齢者医療制度へ移行。窓口負担は原則1割(一定以上所得2割・現役並み3割) |
ポイントは、75歳になると自動的に国保を卒業し、後期高齢者医療制度へ切り替わることです。この切替は市区町村が手続きを進めてくれるため、原則として本人の申請は不要です。
3. 退職したら「14日以内」に国保の加入手続きを
退職して国保に入る場合、手続きには期限があります。
- 期限:退職日の翌日から14日以内に市区町村の窓口へ
- 必要書類:健康保険の資格喪失証明書(退職日がわかる書類)、マイナンバーがわかるもの、本人確認書類
- 遅れた場合:14日を過ぎても加入はできますが、保険料は資格を失った日までさかのぼって請求されます。「手続きが遅れたから安くなる」ことはありません
手続きが遅れている間に病院にかかると、いったん医療費を全額(10割)自己負担することになります。退職後は早めに動きましょう。引っ越しを伴う退職の場合は転居時の国保手続きガイドもご確認ください。
4. 医療費が高くても安心「高額療養費制度」
シニア世代の一番の心配は「大きな病気やケガで医療費が高額になること」ではないでしょうか。その不安に応えるのが高額療養費制度です。
これは、1か月(月初〜月末)の医療費の自己負担が所得に応じた上限額(自己負担限度額)を超えた場合に、超えた分が払い戻される仕組みです。たとえば手術や入院で窓口負担が30万円かかっても、上限を超えた分は戻ってくるため、実際の負担は数万円〜十数万円ですむケースが多くあります。
マイナ保険証なら「窓口での立替」が不要に
以前は、入院前に「限度額適用認定証」を市区町村で取得しておかないと、いったん高額を立て替える必要がありました。しかし現在は、マイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)を医療機関の窓口で提示すれば、オンラインで所得区分が確認され、最初から上限額までの支払いですみます。認定証の事前申請は不要です。
- マイナ保険証を持っている → 窓口に提示するだけで自動的に上限額まで
- マイナ保険証を持っていない → 交付される「資格確認書」に限度額区分を併記してもらうか、従来どおり払い戻し申請を行う
2026年(令和8年)8月からは、高額療養費の自己負担限度額が段階的に見直され、一部の所得区分で上限額が引き上げられる予定です。ご自身がどの区分になるかは、収入によって変わります。最新の限度額や計算例は高額療養費制度の詳しい解説で確認してください。
5. 病気を未然に防ぐ「特定健診」を毎年活用
医療費を抑える一番の近道は、病気になる前に見つけて対処することです。国保加入者は、40〜74歳を対象に特定健康診査(特定健診・メタボ健診)を毎年ほぼ無料で受けられます。
- 費用:無料〜数千円程度(多くの自治体が無料または少額の自己負担)
- 主な検査:身体計測(腹囲・BMI)、血圧、血液検査(血糖・脂質・肝機能)、尿検査など
- 受診時期:おおむね6月〜翌1月(自治体により異なる。受診券が届いたら早めに予約を)
結果で生活習慣病のリスクが高いと判定された場合は、保健師や管理栄養士による特定保健指導を無料で受けられます。「毎年受けているから安心」という積み重ねが、将来の医療費と体の負担を大きく減らします。詳しくは特定健診の解説記事をご覧ください。
6. 65歳からの介護保険|保険料は「年金天引き」に変わる

介護保険料の払い方は、65歳を境に変わります。
- 40〜64歳(第2号被保険者):国保料に介護分が上乗せされて一緒に納める
- 65歳以上(第1号被保険者):介護保険料が国保から分離し、原則として年金からの天引き(特別徴収)になる
65歳になると「国保料が下がったのに、別で介護保険料が引かれるようになった」と感じることがありますが、これは介護分が国保から切り離されて年金天引きに移っただけです。要支援・要介護になったときの相談窓口は地域包括支援センター。元気なうちに場所を確認しておくと、いざというときスムーズです。国保と介護保険の関係はこちらの記事で詳しく解説しています。
7. 年金生活で保険料を抑える方法
収入が年金中心になると、国保料の負担感は現役時代より重く感じられます。次の制度を確認しましょう。
- 低所得世帯の軽減(7割・5割・2割軽減):世帯の所得が一定以下なら、均等割・平等割が自動で軽減されます。申請は原則不要ですが、住民税の申告(所得0でも申告)をしておくことが前提です
- 年金天引き(特別徴収)と口座振替の選択:65歳以上は国保料も年金天引きが基本ですが、申し出れば口座振替に変更できる場合があります
- 減免制度:災害・失業・所得の大幅減など特別な事情があるときは、申請により減免を受けられることがあります
「保険料が高い」と感じたら、まずは市区町村の国保窓口に相談を。効く対策・効かない対策は保険料を下げる方法の記事にまとめています。
8. 保険証はどう変わった?マイナ保険証と資格確認書
2024年12月に従来の紙・カード型の健康保険証は新規発行が終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みへ移行しました。シニア世代が押さえるべきポイントは次のとおりです。
- マイナ保険証を登録済み:マイナンバーカードをそのまま保険証として使えます
- 登録していない・カードを持たない:申請しなくても「資格確認書」が交付され、これまでどおり医療機関を受診できます
- 75歳以降は後期高齢者医療制度の資格確認書・マイナ保険証を使います
「マイナ保険証がないと病院にかかれない」というのは誤解です。資格確認書があれば従来どおり受診できます。仕組みの全体像はマイナ保険証の解説記事で確認できます。
9. シニアが特に注意したい落とし穴3つ
- 窓口負担の割合を勘違いする
75歳以上は原則1割負担ですが、一定以上の所得があると2割、現役並み所得だと3割になります。「高齢者はみんな1割」ではない点に注意しましょう。 - 保険料の滞納で「資格証明書」に
国保料を長期滞納すると、窓口でいったん医療費を全額負担する「資格証明書」に切り替わることがあります。払えないときは放置せず、早めに分割納付や減免を相談しましょう(参考:滞納するとどうなる?)。 - 65歳・75歳の切替を意識していない
介護保険料の年金天引き開始(65歳)や後期高齢者医療への移行(75歳)は自動で進みますが、口座振替の停止漏れや二重払いに注意。通知が届いたら内容を必ず確認しましょう。
10. よくある質問(FAQ)
- Q. 退職後、すぐ再就職しない場合は国保に入る必要がありますか?
A. はい。日本は国民皆保険のため、無保険の期間は作れません。退職日の翌日から14日以内に国保へ加入するか、任意継続・家族の扶養を選びます。 - Q. 年金収入だけでも国保料はかかりますか?
A. かかります。ただし所得が低ければ7割・5割・2割の軽減が適用され、負担は大きく下がります。所得が少なくても住民税の申告はしておきましょう。 - Q. 75歳になったら自分で手続きが必要ですか?
A. 原則不要です。市区町村が後期高齢者医療制度への切替を進め、国保は自動的に脱退となります。新しい資格確認書などが届いたら内容を確認してください。 - Q. 入院前に限度額適用認定証をもらう必要はありますか?
A. マイナ保険証を使うなら不要です。窓口提示だけで支払いが自己負担限度額までにおさまります。マイナ保険証がない場合は資格確認書への区分併記か払い戻し申請で対応します。
11. まとめ|今日からできる「安心のチェックリスト」
シニア世代の国保は、知っているかどうかで負担が大きく変わる制度です。最後に、今日から準備できることを整理します。
- 退職が近い人は「国保・任意継続・家族の扶養」の保険料を試算する
- 退職したら14日以内に国保の加入手続きをする
- マイナ保険証を登録しておく(高額療養費が窓口で自動適用に)
- 毎年、特定健診を受けて病気を早期発見する
- 65歳・75歳の切替通知が届いたら内容を確認する
- 保険料が重いと感じたら、軽減・減免を市区町村に相談する
制度を「知って、早めに動く」ことが、いちばんの老後の備えです。気になる項目から、今日ひとつ確認してみてください。